島の館トップページアクセス・駐車場


記事一覧

 生月学講座 No.129「ぐるりよーざ」

 生月島のかくれキリシタン信仰で唱えられる祈り「オラショ」の中には、音階を付けて歌われる「唄オラショ」と呼ばれるものがあります。生月島では一般のオラショですら、殆ど声を出して唱える形を取っていますが、歌われるものまであるという事は、生月島では基本的に、禁教以前の信仰形態が継承されている事を物語っています。

 唄オラショの中にはヨーロッパ伝来のものがあり、その中の一つ「ぐるりよーざ(うぐるりや)」は壱部、堺目、山田に継承されていて、集落によって文句の欠落などもありますが、比較すると元々同じ曲である事が分かります。「ぐるりよーざ」の存在は、かくれキリシタンの調査が始まった昭和初期から知られており、聖母に対する讃歌(グレゴリオ聖歌)である事も理解されていましたが、原曲については分かっていませんでした。

 しかしその後、原曲とされる聖歌「O gloriosa Domina」の楽譜がスペインに存在する事を、立教大学の皆川達夫先生が明らかにされました。その聖歌は1553年にスベイン・グラナダで刊行されたスペイン固有の「O gloriosa Domina」で、歌詞と旋律が「ぐるりよーざ」と一致する事が分かったのです。ここで両者の歌詞の比較をしてみます。

【壱部・ぐるりよーざ(一番)】
ぐるりよーざ どーみの/いきせんさすんでらしーでら/きてやきやんべ ぐるーりで/らだすで さあくらをーべり
【聖歌 O gloriosa Domina】
O gloriosa Domina/excelsa super sidera/qui te creavit provida/lactasti sacro ubere
【上記曲「輝ける聖母」の訳(加藤 武氏による)】
輝ける聖母よ/星空越えてはるかに居ます御母よ/汝を造られた方を御胸により/清き乳房もて育くまれた。

 なお皆川氏によると、スペインには17世紀に入るとイタリアタイプの「O gloriosa Domina」が導入されたため、以前のスペイン固有のタイプは歌われなくなっていったそうです。つまり、16世紀のイベリア半島で歌われていた「O gloriosa Domina」が、イエズス会の宣教師によって日本のキリシタン信者に伝えられ、禁教時代にも、禁教以前の信仰形態を保持・存続させた生月島のかくれキリシタン信者によってそのままの形で継承されていきますが、その曲の故郷であるスペインでは、イタリアタイプの「O gloriosa Domina」が普及した事で、以前の曲は文書資料の形以外には消滅する事になってしまい、結果的にこの曲が歌われる形で残ったのは、生月島だけになってしまったのです。

 こうした経緯を知ると、生月島にご縁がある指揮者の西本智実さんが、「ぐるりよーざ」の起源である「O gloriosa Domina」をバチカンで披露された事や、今年の8月23日に、平戸において西本さんによる原曲と、かくれキリシタン信者の「ぐるりよーざ」を一緒に紹介するコンサートがおこなわれる事など、ことさらに感慨深く思えてきます。2014.4